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『NINAGAWA十二夜』(大阪松竹座) [演劇・ミュージカル]

歌舞伎とシェイクスピアが融合した『NINAGAWA十二夜』。
もともとは、歌舞伎役者・尾上菊之助の発案で生まれた企画なのだそう。
演出するのは、シェイクスピアのふるさと・イギリスでも演出家として名を馳せる蜷川幸雄。
2005年の初演、2007年の再演の好評を受け、ロンドン公演まで行われた『NINAGAWA十二夜』の凱旋公演を見てきた。

12nights.jpg航海中、嵐に遭い、双子の兄・斯波主膳之助(しばしゅぜんのすけ/尾上菊之助)と離れ離れになってしまった琵琶姫(菊之助)は、男装して獅子丸と名乗り、大篠左大臣(おおしのさだいじん/中村錦之助)に小姓として仕えることに。
その大篠左大臣の思い人が、大納言家の織笛姫(おりぶえひめ/中村時蔵)。
けれども姫は、亡き兄の喪に服したいと左大臣の求愛には見向きもせず。
そのうえ、あろうことか、左大臣の使者として使わされた獅子丸にひと目惚れしてしまったため事態はややこしいことに。
その獅子丸、すなわち男装の琵琶姫はといえば、じつはひそかに左大臣を恋い慕っていて…。

一方、織笛姫の叔父・左大弁洞院鐘道(さだいべんとういんかねみち/市川左團次)は、何かと小うるさい家老の丸尾坊太夫(まるおぼうだゆう/尾上菊五郎)の存在が目障りで仕方ない。
そこで一計を案じ、恋人の腰元・麻阿(まあ/市川亀治郎)、右大弁安藤英竹(うだいべんあんどうえいちく/中村翫雀)らと坊太夫をある罠にはめることに。
その騒動の最中、海賊に助けられて九死に一生を得た主膳之助が姿を現したため、織笛姫、大篠左大臣、獅子丸(琵琶姫)の恋の思惑が絡んで、周囲はさらに大混乱に。
さて、それぞれの恋の行方は…。

舞台をヨーロッパから日本の紀伊の国(和歌山)に移した以外は、物語の設定はほぼそのままの『NINAGAWA十二夜』。
キャスト名も、原作の雰囲気を壊さない日本名を用意するこだわりぶり。
 ヴィオラ→琵琶姫
 シザーリオ→獅子丸
 セバスチャン→斯波主膳之助
 オーシーノ公爵→大篠左大臣
 オリヴィア→織笛姫
 サー・トービー・ベルチ→左大弁洞院鐘道
 サー・アンドリュー・エイギュチーク→右大弁安藤英竹 etc.
さらに、音楽も、三味線・笛・太鼓・鼓など歌舞伎には欠かせない楽器に、シェイクスピア劇では必ずといっていいほど耳にするチェンバロ(ハープシコード)の音色を加えて、東西文化の融合をより強調。
蜷川演出らしく、背景に一面の鏡を使ったり、巨大な桜の木が出現したりと、歌舞伎らしからぬ面を持ちつつ、半面、歌舞伎の約束事も忘れていない心憎さ。
歌舞伎役者の実力を存分に見せつつ、シェイクスピア劇のおもしろさも堪能できる贅沢な舞台だった。
それを、後方とはいえ花道横で見られて、本当に幸せ。

男女の双子を演じた尾上菊之助の早替えはみごと!
凛々しい主膳之助、男装の麗人・獅子丸、清楚な琵琶姫と、2役というよりは実質3役を、声音・立ち居振る舞いをくっきり演じ分けていたのにはさすがとしか言いようがない。
『十二夜』は喜劇なのでコミカルなシーンが多いのだけれど、そのなかで気品と憂いをもって演じ、歌舞伎の伝統美を体現していた。

同じ女方でも、およそ歌舞伎らしからぬ面を見せてくれたのが市川亀治郎。
ヘビ女のように舞台上を匍匐前進したり(もちろん着物のまま)、舞台前に腰掛けて見得を切ったり、何をしでかすのか目が離せない!
それでいて、ちゃんとした女方として存在しているのだから、笑いつつ感心するはめに。
どんな動きをしても、遠目に見ると、色っぽい年増の腰元にしか見えないのだから恐れ入る。
ましてや、『風林火山』で武田信玄を演じ、『Qさま!!』で博識ぶりを披露している人と同一人物とはとうてい思えない(苦笑)。

そのほか、道化と尾坊太夫の2役を演じた尾上菊五郎、亀治郎とともにコメディ部門を担当した市川左團次・中村翫雀ら芸達者の存在も印象的。

歌舞伎もシェイクスピアもともに400年の歴史をもつ。
400年受け継がれているというのは、それなりの魅力を放ってこそ。
その融合は、再演を重ね海を渡ったことからも、成功を収めたと言えると思う。
日本に置き換えると、設定に違和感があるところがないわけではないけれど、それを大目に見ることのできる出来栄えに拍手。
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コメント 6

あぁ

蜷川幸雄さんが、元気になられてなによりです。

市川亀治郎の匍匐前進
この文で、背中がゾワゾワ。み、見たい!

by あぁ (2009-07-19 23:54) 

pica

武田信玄の市川亀治郎しか知らないので
色っぽい年増を想像できない…。
日本名にこだわりがあるのは分かったけど
覚えられない名前も…(^_^;)

18日は「ムサシ」を録画しました!
mikanpanda さんの情報のおかげです。
ありがとう!
by pica (2009-07-20 02:14) 

ねこかど

女性を演じる時の男性の仕草って、女から見ても「いやぁ、ほんとに女だわ!」って感心しちゃいますよね。というより、ホントの女の私より明らかに色っぽい〜。

by ねこかど (2009-07-20 12:44) 

とわ

今までにない企画で面白いでしょうね(^o^)
by とわ (2009-07-20 20:49) 

mikanpanda

*あぁさん*
蜷川さんには、まだまだ活躍していただかなければ~。

亀治郎さんはやりたい放題でした(笑)。
ロンドン公演でも評判がよかったそうなんですよ。(^^)

nice!もありがとうございました。(^^)/

*picaさん*
今回の亀治郎さんは色っぽい悪女でしたが、清楚な姫のときもあるんですよ。
容貌は菊之助さんのように美しくというわけにはいかないけれど(^0^;)、これがまたかわいいくて。

『ムサシ』はちょっと長いけれど、見てみてくださいね~。
お役に立ってよかったです。

nice!もありがとうございました。(^^)/
by mikanpanda (2009-07-22 20:09) 

mikanpanda

*ねこかどさん*
女形の方の演じる女性は、私よりもはるかに色っぽいです。(^0^;)
当日、客席に数人の舞妓さんらしき姿を見かけました。
きっと所作など、参考になったでしょうねぇ~。

nice!もありがとうございました。(^^)/

*とわさん*
古典にはないおもしろさがありました。
歌舞伎を堅苦しいものと思っている人が見たらびっくりするかも。

nice!もありがとうございました。(^^)/

*麻里圭子さん*
nice!をありがとうございました。(^^)/
by mikanpanda (2009-07-22 20:12) 

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