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『キーン』(兵庫県立芸術文化センター) [演劇・ミュージカル]

私の趣味のひとつに観劇を加えるきっかけとなった作品との出会いは、”たまたま”だった。
たぶん学校がお休みの日だったと思う。
テレビをつけたら舞台中継が放送されていて、その主人公がどうやら猫のようなので見てみることに。
それが、劇団四季のファミリー向けのミュージカル『人間になりたがった猫』。
人間の言葉をしゃべれる猫が、魔法つかいに人間に変身させてもらうというファンタジー。
そのとき猫役を務めていたのが、当時、劇団四季に在籍していた市村正親。
まったく知らない役者さんだったのに、彼が出てくると目をそらすことができない。
市村正親という役者を通して、舞台の得も言われぬ魅力を知った瞬間だった。

その舞台をけっきょく生で見ることはできなかったのだけれど、自分でチケットを買って舞台を見るようになってからは、一年に一本は市村正親出演の舞台を見るようにしている。

英国演劇界きってのスター俳優、エドマンド・キーン(市村正親)は、その天才的な演技とともに破滅的な私生活を送る男としても名を馳せている。
恋の浮名を流した女性は数知れず。
酒は毎晩浴びるほど飲み、争い事も日常茶飯事。
金遣いの荒さから借金も天文学的な数字と、彼の日常生活はつねに綱渡り状態だった。

kean.jpg 懲りないキーンの今のターゲットは、デンマーク大使夫人のエレナ(高橋惠子)。
そのエレナには英皇太子(鈴木一真)までもが興味をもち始めたため、話はさらにややこしいことに。
ある日、そんなキーンのもとにアンナ(須藤理彩)という若い娘が飛び込んできた。
熱狂的なキーンのファンであるアンナは、彼の舞台を欠かさず見ているうちにシェイクスピア劇に登場する女性役の台詞を覚えてしまったから、自分も何か演じたいと訴える。
しかし、今やエレナしか眼中にないキーン。
アンナを邪険に扱うが、無垢で率直な彼女はまったくめげず…。

エドマンド・キーンは、18~19世紀のイギリスで活躍した実在の俳優。
舞台『キーン』は、そのエドマンド・キーンの天才的な役者ぶりと、ろくでなしとも言える私生活の悲喜交々を描いたもの。
作者はフランスの哲学者のJ・P・サルトル。
サルトルが作者だなんてかなり敷居が高そうだけれど、実際はウィットに富んだ台詞を散りばめた喜劇。
笑いを呼ぶ場面もとても多かった。

幕開けは、イギリス国歌「God Save the Queen」に続き、『リチャード三世』の劇中劇。
そのほか、『ハムレット』『ロミオとジュリエット』『オセロー』などのシェイクスピア作品が、劇中劇として、台詞の一部として数々登場。
ただ笑えるだけでなく、役者の技量も問われるつくりになっている。
登場人物の恋模様が三角関係だったり四角関係だったりするのも、シェイクスピア作品をモチーフにしたものならでは。

ろくでなしなのにどこか憎めないキーンは、市村正親にはまさにはまり役。
客席から「かわいい」という声が漏れるほどお茶目に演じてみたかと思えば、シェイクスピア作品のシーンになると鬼気迫る役者に変貌。
そのキーンを取り巻く人々の中では、キーンのオッカケともいえるアン役の須藤理彩と、キーンの付き人サロモン役の中嶋しゅうが、とくに印象に残る。
須藤理彩はじゃじゃ馬だけれど純粋でちょっと間の抜けたアンを魅力的に演じていた。
中嶋しゅうはとぼけた味わいが絶品。
キーン、アン、サロモンが繰り出す、キーンの楽屋でのやり取りがとりわけみごとだった。

市村正親という役者を初めてテレビで見たときから、すでに四半世紀がたっている。
でも、その魅力は色あせるどころか、経験も重ねてさらに輝いているのを再確認することができたのが何よりうれしい。
最近お父さん役が増えてきて物足りなかったから…。
今回のキーンのような、破天荒な、ある意味、人間離れした役にもどんどんチャレンジしてほしいもの。
『キーン』は市村正親の代表作のひとつになりそう。
数年したら、またぜひ見てみたいと思う。

タグ:演劇
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理恵

この舞台の会見の時に、お子さんが出来てうれしそうだったお顔が印象的でした。
もしかしたら、そんな出来事も市村さんの原動力になってるのかもね。
by 理恵 (2008-11-01 11:02) 

あぁ

市村正親さん、これからもますます役の幅が広がりそうで
年齢は関係ないと感じさせてくれる役者さんだと思ってます。
by あぁ (2008-11-02 08:52) 

pica

須藤理彩は好きな女優のひとり。

市村正親は昔、ダメだったの(ごめんね~)。
だいぶ前にドラマで観て、まさに「まったく知らない
役者なのに目をそらすことができない」強烈な印象を
受け入れられなかった十代の頃…。

でも、いまは「いい役者さん」と素直に言えますv
by pica (2008-11-03 04:15) 

mikanpanda

*理恵さん*
遅くにできたお子さんなのもあって、溺愛していらっしゃるようですね。(^^;
おそらくお子さんはかなりの原動力になっているはず。
これからもガンガン働いていただきたいです(笑)。

nice!もありがとうございました。(^^)/

*あぁさん*
市村さんは現在50代。
だからといって年相応な落ち着いた役ばかりでなく、これからいろんな役にチャレンジしていただけたらと、一ファンとしては思います。
息子を思うよくある父の役だと、なんだか物足りないんですよォー(笑)。

nice!もありがとうございました。(^^)/

*picaさん*
市村正親はやはり強烈でしたか…。(^^;;
そのときに好きな役かそうじゃないかで印象は違うかも。
私の場合は、初対面が「猫」だったから(笑)。

かわいらしい面もありつつ、役者としての才能がある方なので、篠原涼子が年の差を越えて惚れた(笑)のもわかる気がするんですよね。

nice!もありがとうございました。(^^)/


by mikanpanda (2008-11-03 19:46) 

ねこかど

市村正親さんが猫の役!猫好きとしてはすごーく見てみたいです!
劇中劇でシェイクスピアがいくつも使われているとなると、ちょっとでも知っている方が楽しめそうですね。見ている方にも軽く教養が求められているのね・・・!
by ねこかど (2008-11-04 15:30) 

mikanpanda

*ねこかどさん*
猫役の市村さん、すっごくかわいかったんですよ!
ファミリー向けのミュージカルなので、今思うと、けっこう大げさな演技をしていたのですけれどね。
それがファンタジーにはまっていました。
役者さんは違う方になりますが、『人間になりたがった猫』は今でも劇団四季が上演しているので、あと10年ぐらいして(笑)、ぽん太くんと一緒にご覧になったら楽しいかも。

シェイクスピア作品好きなので、劇中の台詞の出典はだいたいわかったのですが…。
今度、古田新太主演の『リチャード三世』を見るので、その前に戯曲を読んでおこうと思いました。

nice!もありがとうございました。(^^)/

by mikanpanda (2008-11-06 00:01) 

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