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Movie『クライマーズ・ハイ』 [映画・テレビ]

羽田空港から伊丹空港へと向かうJAL123便が、群馬県御巣鷹山に墜落する「日航機墜落事故」があったのは1985年(昭和60年)8月12日。
乗客・乗員を合わせ520人という犠牲者は、航空機の単独事故としては史上最悪のものだった。
それから23年の月日が流れた。

私自身は、この事故についてはもちろんよく覚えているし、それに関するニュースもずいぶんと見た。
でも、いちばん印象に残っているのは、数年前に読んだ『沈まぬ太陽』iconという山崎豊子の手による小説。
この本は、国民航空という航空会社の社員を主人公にした企業小説で、モデルはいるけれどもあくまでもフィクション。
ところが、そのなかの御巣鷹山編だけは多くの事故関係者が実名で登場する。
そこに描かれていたのは、残された遺族がなんとしても家族を探そうという壮絶な戦いだった…。

映画『クライマーズ・ハイ』は、この日航機墜落事故に直面した地方新聞社の激動の1週間を描いたもの。

1985年8月12日。
乗員・乗客524人を乗せたJAL123便が消息を絶った。
情報が錯綜するなか、機体は、飛行コースとはまったくかけ離れた群馬県御巣鷹山に墜落したことが明らかになる。

群馬県前橋市にある北関東新聞社では、ワンマン社長白河頼三(山崎努)のツルのひと声で、遊軍を専門とする記者・悠木和雅(堤真一)が、この事故の全権デスクに任命された。
未曽有の事件が、地元に文字どおり降ってきたことに興奮の坩堝と化す局内。
悠木は県警キャップの佐山達哉(堺雅人)らを事故現場へ急行させる。
そんなとき、悠木は販売局員で友人である安西耿一郎(高嶋政宏)が、突然倒れたことを知らされる。
じつはこの日、悠木と安西は、谷川岳の衝立岩を登るために待ち合わせをしていたのだった…。


物語は、事故から1週間の北関東新聞編集局の嵐の日々を縦糸、一緒に衝立岩を登るはずだった安西の息子と改めて衝立岩に挑戦する悠木の今(2007年)が横糸になって進行。
「クライマーズ・ハイ」といわれる極度の興奮から感覚が麻痺した状態を、事故と衝立岩のふたつの山を登ることで表している。

映画と同名の原作の作者・横山秀夫は、群馬県の地方紙・上毛新聞の記者だった人で、この事故の取材も実際に経験しているのだそう。
その小説をベースに映画化されているので、新聞社の様子に説得力があり、ぐいぐい引き込まれる。
新聞記者として一生に一度当たるかどうかという大事故を前にして、興奮を押さえられない若手。
これまで群馬で起きた大事件「オオクボレンセキ」(連続殺人事件と、連合赤軍によるリンチ殺人)にかかわったという過去の栄光が忘れられず、若手の活躍を快く思わない幹部。
締め切りという避けようのない壁。
そして、販売部や広告部といった他部署との軋轢。
さまざまな社内の問題が全権デスク・悠木の前に雪崩れのように押し寄せる…。

悠木を中心に話が進むとはいえ、群像劇でもあるので新聞社関係の登場人物がかなり多い。
にもかかわらず、それぞれの個性がはっきりしていて魅力的。
これは原作と脚本のよさもあるのだろうけれど、キャスティングがみごと。
主人公・悠木役の堤真一は物語の軸をしっかり支えていたし、眼光鋭い・社会部長役の遠藤憲一、緊迫したなかに和みをもたらしてくれた整理部のでんでん・マギーなど、硬軟のキャラクターをしっかり配置。
そのうえで、キーパーソンともいえる県警キャップ・佐山役の堺雅人が激しさと冷静さを巧みに演じ分け、映画の顔になっていた。

ただ、この社内を描くのに力を入れすぎたせいなのか、横糸である悠木と山・悠木と家族の関係がうまくシンクロしているといは言い難く、現在のシーンになるとどうも置いてきぼりを食らってしまう。
それもあって、肝心のラストに唐突な印象がぬぐえなかった。
編集局で重要な決断を迫られる悠木のシーンなど、心は局員のひとりになって見入っていたのに…。

2時間25分と長尺にもかかわらずエンディングまでまったくあきず。
それなのに最後がしっくりしなかったので、原作はどうなっているのかが気になって映画を見終わってすぐ読み始めた。
原作と映画は別物でいいのだけれど、原作よりも悠木と白河社長との関係を強調するというのが欲張りすぎたのかもしれない。

そうはいっても、23年前の事故を風化させないためにも、映画化には意味があったと思う。
群像劇の部分はとにかくすばらしいし、まだアナログな時代の混乱ぶりもわかりやすかった。
何より、事故現場の生々しい描写を極力避けたうえで、その壮絶さを伝えていたのが印象に残る。

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タグ:映画 邦画
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ねこかど

沈まぬ太陽、落ち着いたら読もうと思っている本の一つです。私はこの事故のとき小学生で、家族&知人達と夏休みのキャンプに出掛けていました。
映画もDVDになったら見ようと思います。
by ねこかど (2008-08-19 11:05) 

pica

横山秀夫作品って好きなんですよ。

これって NHK で、佐藤浩市主演で
放映してましたよ。観てましたか。
映画も観たいなと思ってます。
by pica (2008-08-20 01:29) 

あぁ

もう23年なのかまだ23年なのか。
映画紹介の番組を見たとき
あの時の衝撃がよみがえりました。
残された遺族の方々が
お山に登るため体力をつけてることも
ご自分を責めたり後悔してることも重くのしかかります。
by あぁ (2008-08-21 00:17) 

mikanpanda

*ねこかどさん*
23年前ということは、30代以上じゃないと事故があったのを覚えていないんでしょうねぇ。

『沈まぬ太陽』は文庫本で5冊と長めですが、一気に読めましたよ。
おすすめです。
ただし、飛行機に乗る機会が多い方にはあまりおすすめできません(飛行機に乗りたくなくなるので)。

nice!もありがとうございました。(^^)/

*picaさん*
NHKのドラマは見ていないんですよォ~。
見てみたくて近くのTSUTAYAでも探したのだけれど、扱いがなし。
また違うレンタルショップをのぞいてみま~す。
あらすじを読んだかぎりでは、ドラマのほうが原作に近いみたいですね。

nice!もありがとうございました。(^^)/

*あぁさん*
あまりに衝撃的な出来事で、23年たってもご遺族の心が癒えることはないでしょうねぇ…。
ああいった事故が二度と起きないことを祈るばかりです。

nice!もありがとうございました。(^^)/
by mikanpanda (2008-08-22 00:01) 

ayuna

クライマーズ・ハイ、すごく観たかったけど、ポニョを観てしままった。。最近、堺雅人さんがすごく好きで、発端は堺雅人さんが出てるから観たいって思ったんですが、最初から最後まで飽きない緊張感がある映画なんですね。
沈まぬ太陽って、本屋さんに必ず置いてある印象があります。私もいつか読もう。


by ayuna (2008-09-15 01:11) 

mikanpanda

*ayunaさん*
お久しぶりです!
堺雅人ファンにはおすすめな作品ですよ!
私は、この映画のあるシーンの彼の鋭いまなざしがいまだに忘れられません。
DVDになったら見てみてくださいね!

nice!もありがとうございました。(^^)/
by mikanpanda (2008-09-15 18:16) 

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