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『さらば、わが愛 覇王別姫』(シアター・ドラマシティ) [演劇・ミュージカル]

映画『さらば、わが愛/覇王別姫』は、激動の時代の中国を舞台にふたりの京劇俳優の愛憎を描いたもの。
香港と中国の合作で、公開は1993年。
カンヌ国際映画祭のパルムドール(最高賞)とゴールデン・グローブの外国語映画賞を受賞し、アジアではすでに人気のあった主演のレスリー・チャンの名を、世界にとどろかせたことでも知られる。
そんな作品が、蜷川幸雄演出で音楽劇として甦った。

haou.jpg遊郭の娼婦のもとに生まれた小豆子(シャオトウツー)は、男の子では遊郭に置いておけないと、京劇俳優を養成する科班に捨てられるように預けらてしまう。
「淫売の子」と仲間にいじめられる小豆子。
そんな彼をかばってくれたのは、年上の石頭(シートウ)だった。
そして石頭は、厳しい科班での稽古を支えてくれる存在でもあった。
やがて幼い小豆子は、石頭に思慕の念を抱くようになる。

成長した石頭と小豆子は、それぞれ段小楼(トアン・シャオロウ/遠藤憲一)と程蝶衣(チョン・テイエイ/東山紀之)と名乗るようになる。 『覇王別姫』の項羽(コウウ)とその愛妾・虞姫(グキ)を演じ、トップスターどうしとなる小楼と蝶衣。
ふたりを取り巻く環境がすっかり変わっても、蝶衣は変わらず小楼を慕い続けていた。
けれども小楼は、蝶衣の気持ちをよそに、娼婦の菊仙(チューシェン/木村佳乃)と結婚してしまう。
深く傷ついた蝶衣は、京劇界の重鎮・袁四卿(ユアン・スーチン/西岡徳馬)との関係を深めていくことに…。


映画版がちょうどCATVで放送されていたので、それを録画しておいて舞台を見る直前に予習。
じつは前にもCATVで見ているのだけれど、何しろずいぶん前の出来事すぎて細部はすっかり記憶のかなたに…。
結果は時代背景がよく思い出せたので、見て正解だった。

物語の舞台となるのは、1930年代から1960年代の中国。
そのころの中国はというと、日本軍の侵略に始まり、中国国民党、中国共産党と権力者がたびたび入れ替わるという時代が大きくうねり続けたころ。
しかも、しまいには「文化大革命」という名の粛正運動まで起こり、多くの文化人がいわれなき迫害を受けた。
舞台は、そんな怒濤の三十数年を休憩なしの2時間(映画版は3時間)に凝縮しているので、時代背景に関してはやや言葉足らず。
それから、映画版では全体の3分の1近くを占める子供時代を、冒頭の数分とその後の台詞で説明するかたちをとっているため、蝶衣がなぜそこまで小楼に心を寄せるのかという核になる部分がいまひとつ弱くなってしまっていた。

歌あり、京劇あり(しかも女形で剣舞つき!)という難役をこなした東山紀之は、やはり努力の人なんだと思う。
さすがに何十年も女形を演じている歌舞伎役者のようにはいかないけれど、シャープな踊りを得意とする彼が、優美な女形としてしっかりと舞台上に存在。
ときに小楼への切ない思いを背中で演じるなど大健闘。
何より長年踊りを続けている人なので、とにかく体の軸が美しい!

蝶衣を妖しく(?)誘う袁四卿を演じる西岡徳馬は、映画版に比べるとだいぶ好色な感じ。
それでいて紳士的で知的。
演出家が、スケジュールが詰まっているところを無理やり依頼したというのもうなずけるというもの。
菊仙は、映画版では中国が世界的に誇る女優コン・リーが演じているので、木村佳乃の小粒感は否めなかったけれど、客席通路を横切ったときの彼女の横顔ははっとするほど美しかった。
残念だったのは小楼の遠藤憲一。
声がかれてしまっていて台詞が聞きづらく…。
東山紀之と並ぶと絵になるし、魅力的な俳優さんだけにとてももったいない。

舞台の幕開けは、左右にしつらえた紗の幕が揺れるなか、子役さんの演じる小豆子が、手にナイフを持った母にスローモーションで追われるシーンから。
蜷川幸雄は、やっぱり冒頭から仕掛けてきた。
きっと何年たっても、このシーンだけは忘れないだろう。
刃物と娼婦は、その後の小豆子(=蝶衣)の人生を大きく左右するのだから。

そして物語の最後には、北京オリンピックに関する英語の放送が流れる…。
この公演が企画されたときにはそんな意図はなかったのだろうけれど、権力や時代に翻弄された蝶衣たちと、いま中国を揺るがしている人権問題がオーバーラップしてしまったのは私だけだろうか。


タグ:演劇 映画
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ayuna

映画を見るときも、時代背景が分かっていると、理解の仕方が全然違いますね。私なんか、意味が分からないまま、見ていることが多いけど・・・。
さらば、わが愛、知りませんでした。
男性が男性に惹かれてしまう、ちょっと分からない事だけど、この舞台とか、映画を見たら、なるほどって思うのかな。
映画、キサラギとともに借りてこようかな。。


by ayuna (2008-04-17 23:31) 

ねこかど

映画、見てみたいなぁ〜って思いました。
中国の文化革命の頃のお話というと、すっごく以前に読んだ「ワイルドスワン」を思い出します。抑圧された生活に息が詰まるような思いで読んだなぁ・・・。

東山さん、現在どこかの雑誌でヌードを披露されていますね。ヨガで体を鍛えるのが趣味の友人が「ホレボレしちゃうよ、あの体は!」と絶賛していました。
by ねこかど (2008-04-18 13:43) 

レッドパラダイス

この映画好きだったなぁ~
今は亡きレスリー・チャン、男から見てもグッと惹かれる妖艶さにコン・リーの美しさ、忘れられない一作です。
主題歌を唄っているサンディ・ラムも素敵で3時間があっという間だったのを想い出しました^^
記事を読んで棚の奥からCDを探し出して久しぶりに聞いています♪

記憶の扉を開けてくださってありがとう!
by レッドパラダイス (2008-04-18 23:29) 

あぁ

>西岡徳馬は・・・好色な感じそれでいて紳士的で知的。
この文章だけで、映像が浮かんでくるようです。

なんてすごい演出なんでしょう。

by あぁ (2008-04-19 05:51) 

とわ

舞台を観ているような気分になりました。
どうもありがとうございました(^^♪
by とわ (2008-04-19 16:58) 

pica

遠藤憲一さんは好きな俳優の一人なんです。
しかも蜷川演出!気になります☆
  
by pica (2008-04-20 19:07) 

mikanpanda

みなさん、コメントとnice!をありがとうございました。
お返事が遅くなってしまいごめんなさい。_(._.)_

*ayunaさん*
今回の舞台は、登場人物の人生が時代によって大き変わってしまうお話だったので、時代背景の知識があったほうがなお伝わってくるものが多かったと思います。
それと、オリンピックが北京で開催される中国は注目の国ですからね。
その歴史の一部を、ざっとでもおさらいできてお得でした(笑)。

nice!もありがとうございました。(^^)/

*ねこかどさん*
『覇王別姫』も原作があるんですよ。
(私は未読)
映画も、後半は多少駆け足感はありますが、見て損はないと思います。
幸い、私もここで結末まではネタばれしていないし。(^^;

東山氏が脱いだ(笑)のは「Tarzan」です。
40代であの体は私もすごいと思います。
ふだんの努力なしではかなわないことですよね。

nice!もありがとうございました。(^^)/

*レッドパラダイスさん*
映画をご覧になったことがあるんですね!
せつないお話ですよねぇ~。
私も、今回あらためて映画を見直すことができてよかったと思っています。

nice!もありがとうございました。(^^)/
by mikanpanda (2008-04-23 20:46) 

mikanpanda

*あぁさん*
「好色」という表現はどうかなぁと、あとから思ったんですけどね。(^◇^;;
あぁさんが気に入ってくださったのなら、そのままにしておきます。

nice!もありがとうございました。(^^)/

*とわさん*
私の拙いブログにお礼だなんてとんでもないですぅ~~~。

nice!もありがとうございました。(^^)/

*picaさん*
遠藤さんは大人の色気のある俳優さんですよね。
目と声がとくに魅力的。(*^-^*)
今回は、その声を枯らしていたので残念でしたが。

nice!もありがとうございました。(^^)/

*理恵さん*
*ぽっぽさん*
nice!をありがとうございました。(^^)/
by mikanpanda (2008-04-23 20:47) 

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