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『ヴェニスの商人』(兵庫県立芸術文化センター) [演劇・ミュージカル]

日本で最初に翻訳されたシェイクスピア作品は『ヴェニスの商人』なのだそう。
そして、私が初めて手にしたシェイクスピア作品も、おぼろげな記憶をたどってみるとそれも『ヴェニスの商人』だった。
といっても小学生のときなので、子供向けの簡略版だけれど。

ヴェニスの裕福な商人アントーニオ(西岡徳馬)は、ある日、かわいがっている年下の友人バサーニオ(藤原竜也)に借金を申し込まれる。
バサーニオは、そのお金をベルモントに住むポーシャ(寺島しのぶ)という令嬢にプロポーズするための元手にしたいというのだ。
ところが、あいにくアントーニオの財産は海を渡る船の上。
それでもバサーニオを助けたいアントーニオは、自らが保証人となり、ユダヤ人である高利貸しのシャイロック(市村正親)に借金を申し込む。
そんなふたりにシャイロックが出した条件は、3か月後の期限までにお金を返せなければアントーニオの肉を1ポンド切り取ってよいことにするというものだった。
その条件をアントーニオは飲み、バサーニオはポーシャのもとに向かうのだが…。

私が小学生のときに『ヴェニスの商人』を読んで感じたのは、借金の代わりが人肉1ポンドとはなんて無茶な要求をするんだろうというものだった。
そのため、シャイロックは悪役としてしっかりとインプットされていた。
でも、あらためて『ヴェニスの商人』という作品に触れてみると、異教徒というだけで迫害を受けるユダヤ教徒の深い悲しみがその背景にはあったのだ。

そんなユダヤ教徒のシャイロックを、市村正親は単にお金に執着するだけではなく人間味のある人物として表現。
彼の悲哀をよりいっそう濃いものにしていた。
一方の、迫害する側のキリスト教徒として登場するアントーニオは、結果だけを見れば救われるかたち。
けれどもよくよく考えてみれば、彼がずっと貢いできたバサーニオの心はポーシャが射止めてしまいアントーニオの思いは報われない。
西村徳馬演じるアントーニオにも、シャイロックとは違ったかたちのマイノリティの悲しさを感じられた。
そして、逆に世渡り上手なのはバサーニオ。
アントーニオを窮地に陥れるきっかけをつくったくせに、しっかり資産家の令嬢ポーシャとの結婚も決め、人生に死角なしという感じ(苦笑)。
藤原竜也が演じるバサーニオはちゃっかりしているけれど、どこか憎めない。
憎めないどころか魅力的。
劇中にある扮装シーンはノリノリで演じ、これまで彼が出演したシェイクスピア作品とはまったく違った印象も披露してくれた。
(この扮装シーンがあることで、バサーニオの「ちゃっかり」度はさらに上がったのもつけ加えておきたい)
ポーシャ役の寺島しのぶは力のある女優さん。
ただ、ヘアメイクはもうちょっと若さが出るもののほうがよかったかも。
そのポーシャの侍女役の佐藤仁美は、シェイクスピア作品は初めてとのことだけれど台詞も聞き取りやすく、好感のもてるかわいらしさがあった。

差別を受けたからといって暴力でそれを返すのは、もちろんあってはいけないこと。
それでもシャイロックが受けた仕打ちを思うと、自分の国だけが正しいと押しつけるどこかの国を見ているようで、3組のカップルが生まれての大団円はどうもすっきりしない。
とはいえ、シェイクスピアが書いた喜劇のほとんどが結婚で終わり、悲劇のほとんどは結婚がきっかけで始まるのを思うと、「末長く幸せに暮らしましたとさ」とは簡単にはいかないのが結婚なんだと考えればば、それなりに納得できる結末なのかもしれない(苦笑)。

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『新訳 ヴェニスの商人』 icon


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コメント 4

勿論よんでるハズだけど、すっかり記憶がなくなって
しまいました。
今更、本を読むより、ミュージカルが見れたら
いいですね。
by (2007-10-11 17:33) 

あぁ

同じく、内容を忘れてしまった私^^;
自分たちと違う文化だからと否定しっぱなしではね~。
結婚も、そういうものなんだろうな。
まず、受け入れる事が重要なのでしょうね。
by あぁ (2007-10-11 20:49) 

理恵

そっか、藤原くんと市村さん共演なんだー。
贅沢だね。
by 理恵 (2007-10-11 21:06) 

mikanpanda

*とわさん*
子供のときに読んだものに大人になってあらためて触れると、あらたな発見があってそれはそれでおもしろかったです。
私も多少は成長したのかなぁと(笑)。

nice!もありがとうございました。

*あぁさん*
ユダヤ人への「差別」がとてもクローズアップした舞台だったので、そういう意味ではすっきりしませんでした。
人それぞれ信じているものって、大なり小なり違うから、自分と違っても柔軟に対応できるようになりたいなぁと思いました。

nice!もありがとうございました。

*理恵さん*
竜也くんは市村さんとの共演は『ライフ・イン・ザ・シアター』以来2度目かな?
シェイクスピア劇には無理があるんじゃないかと思われる俳優さんもいたけれど(^^;、贅沢な配役でしたよ。
お値段もなかなか贅沢でねぇ…。

nice!もありがとうございました。

*犀川さん*
nice!ありがとうございました。
by mikanpanda (2007-10-12 18:38) 

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